039:媚薬

- Lion&Uwe -

 名前を呼ばれ、声の方へと顔を向けると、一瞬呼吸を忘れてしまいそうな深く澄んだ蒼い瞳が間近に見え、一拍置いた呼吸の後に何だと問えば、蒼い瞳が細められて唇が太い笑みを浮かべて弧を描く。
 持ち上がった口角をぼんやりと視界に納めていると、顎を掴まれて軽く持ち上げられ、何を望んでいるのかを察して僅かに目を伏せると、顔に陰が落ちる。
 そして唇に微かに乾燥気味の唇が触れ、何かを確かめるように一度離れ、二人の間に小さな吐息がこぼれ落ちる。
 いつもしているキスなのに何を確かめたいのか、その疑問を双眸に浮かべて青い眼を真っ直ぐに見つめれば、苦笑する気配が伝わった後、そっと眼鏡を外されてしまう。
 眼鏡が無くなった事でより一層顔を寄せることが出来るようになり、今度は角度をつけて唇が重ねられてくる。
 乾燥気味の唇が重なると同時に薄く唇を開くと、顎から頬へと移動した手からじわりと歓喜が伝わり、開いた唇の間に舌先が差し入れられた為、絡めた舌を自ら口内へと招き入れる。
 触れるだけのキスから腰に響きそうなキスを交わせば、互いの間に歓喜と熱が生まれ、離れがたくなってしまう。
 それがベッドの上ならばそのまま互いの裸の背中に腕を回して抱き合ってこの熱を吐き出すが、互いに仕事の朝に何かの拍子にこんなキスを交わしてしまえば、その日一日はまるで熱に浮かされたような心地になってしまっていた。
 今まで付き合ってきた人は数人いるが、こんな気持ちになるのは、驚くほど深く澄んだ蒼い瞳とくすんだ金髪、まるで永遠の子どものような笑顔を持つ恋人と付き合いだしてからだった。
 過去にない濃い密度で恋人とキスを交わして熱を交歓し、吐き出した後の心地よい気怠さの中で肩で息を整えている時でさえも、次から次へと熱が生まれ、互いを求める気持ちを押し止めるのは日を追う事に難しさを増しているようだった。
 だがそんな気持ちを素直に表に出せずにいると、しっかり見抜いていると言いたげに蒼い瞳に見据えられてしまい、ロイヤルブルーの瞳に見つめられると、まるで心臓に薬を打ち込まれたような気持ちになり、言葉では言い表しにくい痛みとも快感ともつかない気持ちが胸に芽生え、落ち着きを無くした心が背筋を震わせてしまうのだ。
 その瞳が傍にある限り、強烈な効果をもたらす媚薬を延々と心臓に流し込まれているような気にすらなってしまい、息苦しさの下で不満げに訴えると気配が一瞬掻き消え、次いで男と言うよりは獣の雄を連想させる気配が身体全体を覆い、独りだけではなく二人で獣に変身しようとキスで誘われて喉を鳴らしてしまう。
 そうして互いの雄を解放し熱を吐き出すと、途端に雄の気配が消えて心臓に直接打ち込まれていた薬の効果も薄らいでいくが、媚薬の滴の底できらりと光る互いへの情だけは消える事は無かった。
 その情を胸に秘めて今日もまた互いの背中に手を回し、腰に生まれた熱を吐き出した後の気怠くも二人だけの秘め事のような時に身を任せ、呼吸が落ち着いたのを見計らって厚い胸板が覆い被さってくる。
 それをしっかりと受け止めて満足したこと、いつも感じている情を今もまた感じていることを掌で伝え、同じ気持ちを短い言葉で伝えられた満足に吐息を一つ零すのだった。

 

2012.10.30-12.02


Page Top