オーヴェ、と、名を呼ばれてカウチソファに腹這いになりながらクロスワードを解いていたウーヴェが顔を上げると、座面に顎を載せてふわぁと大欠伸をするリオンがいて、どうしたと問いかける代わりにくすんだ金髪に手を添える。
「オーヴェ、俺の事好きか?」
「は?突然どうしたんだ?」
本当に突然の疑問にウーヴェが目を丸くして苦笑すると、リオンが髪を撫でられる心地良さに目を細め、俺の事が好きかともう一度問いかけてくる。
恋人の突然の疑問や行動には慣れるほどの時を過ごしてきたウーヴェだったが、今更何故好きかどうかを確かめる必要があるんだと苦笑すると、何となくだと返される。
「な、オーヴェ」
俺の質問に答えてくれと上目遣いで見つめられ、ああ、と素直に答えようとしたウーヴェだったが、見下ろした青い瞳がただひとつの答えが出てくることに何の疑いも持っていないようだった為、ほんの少しの悪戯心が沸き上がる。
「────さぁ、と言えばどうする?」
きっと驚きに目を瞠ってソファから勢いよく身体を起こして座面に飛び乗り、何故そんなことを言うんだと目を潤ませる姿を予測しつつ答えると、ウーヴェが脳内で思い描いた光景と寸分違わないものが目の前に展開される。
「どうしてそんな事を言うんだよ、オーヴェ!」
お前が驚く顔を見て見たかったからとは言えず、何故だろうなと目を細めると、クロスワードが乱暴な手付きで奪い取られ、手にしていた鉛筆も取り上げられて手の届かない場所に投げ捨てられてしまい、窘めるようにリオンを見れば恨みがましい目で睨まれてしまう。
「なぁんでそんな事言うんだよ」
両足首を掴んで身体を前後に揺さぶり頬を膨らませる姿は子どもそのもので、思わず吹き出しそうになるがここで吹き出しでもしてしまえば機嫌のボタンを掛け違えることは明白だった為、咳払いをひとつしてリオンと対面するようにソファに座ると、膨らむ頬を撫でてその手でピアスが填る耳朶を優しく摘み、僅かに顔を顰めさせた後にくすんだ金髪に手を差し入れて頭の形を確かめるように撫でる。
「────リーオ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
リオンがどんな反応を示すのかを確かめてみたかった為のウソだったが、案外真剣に拗ね始めたことを察したウーヴェが今度は膨らむ頬と尖った唇にキスをする。
そのキスである程度機嫌は直ったようだったが、それでもまだ許せないらしいリオンの手を取り、その甲で己の頬を撫でるとリオンの頬の膨らみが解消される。
「リーオ」
ウーヴェだけが呼ぶ名前を呼びながら鼻の頭にキスをし、己の頬を撫でた手の甲にもキスをすると、前後に揺さぶっていた身体が動きを止める。
「・・・・・・・・・・・・・・・うん」
「誰とも比べられないほど、お前が好きだ」
こうして肌を触れあわせて視線を重ねるだけで伝わるものは確かにあるが、リオンが唐突に問いかけてきたように己の思いや疑問を口にするのも大切だった。
だから真っ直ぐに目を見つめ、いつも胸の中に有る思いとさっきのささやかな、だが重大なウソを帳消しにしてくれと願いつつ有りっ丈の思いを込めて好きだと告白すると、リオンの青い瞳がみるみる内に丸くなり、次いで顔中をくしゃくしゃにするように笑み崩れさせたかと思うと、ウーヴェが握っていた手を本来の持ち主である己に取り返すと同時にウーヴェの首に腕を回してしがみつくように抱きしめる。
「オーヴェ・・・・・・オーヴェ」
「ああ。どうした?」
己の首にしがみついてただ名前を呼ぶリオンの背中を撫でてどうしたと囁くと、耳に直接吹き込むように口を寄せたリオンが愛してると囁く。
その声に背筋が震えそうになるのを堪え、同じ言葉ではないが同じ思いを持っていることを伝える為に短くああとだけ返すと、リオンの口から安堵の溜息がこぼれ落ちる。
二人で一緒にいる時にこうして愛情を確かめるような疑問を口にしたりすることはあまりなかったが、二人の総ての感情をさらけ出させる為の試練のような事件や出来事を乗り越えた今、こうしてリオンが何気なさを装って愛情を確かめるようになっていた。
さっきさあと言ったのはウソだと告げてぽんと背中を叩けば、もう一度安堵の溜息がこぼれ落ちる。
「ウソを吐いたバツにチョコが食いてぇ、オーヴェ」
「ウソを吐かなくても食べるんじゃないのか?」
首筋に髪を押しつける行為も以前は命の危機に直結するような恐怖を感じていたが、リオンと付き合いだして己の内を少しずつさらけ出すようになってからはこの柔らかな髪ならば平気になってきている為、調子に乗るなとその髪を軽く引っ張ると悲鳴が上がる。
「前に作ってくれたオレンジピールも良いけどさ、レモンの皮で出来ねぇか、あれ?」
「レモン?やったことはないから分からないけど作ってみようか?」
互いの背中を撫でながら以前食べたものが美味しかったから今度は同じ柑橘系のレモンで作って欲しいとリオンが提案すると、ウーヴェもそれが気になったらしく、リアかベルトランに聞いてみようと頷いたためにリオンがようやく身体を離して笑みを浮かべる。
「ダンケ、オーヴェ」
「ああ」
些細なウソを吐いたバツだがそれで許してくれるのならばいくらでもと思いながらも口にしないで目を細めたウーヴェは、楽しみだと身体を揺らすリオンの頬に手を宛がい、驚く青い瞳に笑顔を映す。
「愛してる、リーオ」
「ん、俺も愛してる」
この思いだけはウソではないと伝えるように声に真剣さを混ぜるウーヴェにリオンも頷き、照れたように笑みを浮かべるのだった。
2013/08/28


