001:バーカウンター

Lion & Uwe

 それは、二人が仕事を終えて自宅に戻る前に立ち寄ったバルでリオンが何気なく放った一言が切っ掛けだった。
 「な、オーヴェ、家にこんなバーカウンターがあれば良いと思わねぇか?」
 唐突に問われて目を丸くしたウーヴェは、ビールのボトルを片手に笑うリオンに首を傾げ、視線で指し示された店の奥にある小さなカウンターへ顔を振り向け、次いでリオンの顔へと視線を戻すと、片目を閉じてどうだと問われる。
 「どうだと言われてもな」
 あんなカウンターをどこに置くつもりなんだと苦笑すると、部屋がたくさん余っているからどこにでも置けるだろうと何でもない事のように返されて苦笑を深くする。
 「家で飲む時にバルのようなスタイルで飲みたいのか?」
 「んー、そうじゃねぇけど、家にカウンターがあって、メシを食い終わった後に時々二人でそこで飲めたら嬉しいなって思っただけだ」
 何となくの思いつきだから深く気にしないでくれと肩を竦めたリオンだが、リオンの願いならば極力叶えようとするウーヴェにしてみれば気にするなと言われても気になってしまうと答え、今度はリオンに苦笑を浮かべさせる。
 「実際に置くかどうかは分からないが、もしも置くとすればどこに置きたい、リーオ?」
 「んー?そーだなー・・・ダイニングに使える部屋だっけ、あそこは?」
 リオンが考えているのが付き合いだして初めての誕生日を迎えた際にパーティを開いたが、その部屋はどうだと答えたリオンにあの部屋は窓が小さいと笑うと、蒼い瞳が見開かれる。
 「へ?」
 「どうせ作るのなら景色がよく見える広い窓に面した部屋が良くないか?」
 「あー、それも良いなぁ。思いつかなかったや」
 ウーヴェの提案に素直に感心しつつ、ウーヴェの前にあって全く減っていないサーディンのオイル漬けを摘んでウーヴェの口元に運ぶが、微苦笑一つで無視されてしまって一口で食べると、無視されたことに腹を立てる訳でもない顔でビールを飲み干す。
 「その部屋ってさ、ベッドルーム側の部屋ってことか?」
 「そうだな」
 「え、じゃあさ、それって俺の部屋ってこと?」
 「そうなるな」
 去年の夏以降、今までのような半同棲暮らしから完全にリオンがウーヴェの家で暮らすようになったのだが、その際玄関から最も近い部屋の一つ、窓際の一部屋をリオンの部屋にしたのだが、その部屋に置けばどうだと笑うと、リオンの顔が天井を見上げて次いで料理とビールが載っているテーブルを見下ろし、最後にウーヴェを真正面から見つめると、それでも構わないと笑う。
 リオンの荷物などたかが知れていて、その一部屋でも十分過ぎるほどで、実際リオンの部屋にあるものはと言えば、以前暮らしていた部屋にあったシングルベッドと小さな丸いテーブルだけのはずなのに、何故か部屋の中は以前と変わらずに足の踏み場がないほど散らかっていたのだ。
 カウンターを置けば部屋を少しでも片付けるかも知れない思惑から提案をしてみたのだが、リオンがその提案に賛同してくれた為、じゃあ部屋がきれいに片付くなと笑うと、青い眼が一瞬不審そうな色を浮かべるが、次いでしまったと言いたげに見開かれてウーヴェがくすくすと笑い出す。
 「オーヴェぇ・・・」
 「二人でそんな風に酒を飲む部屋が散らかっているのは好きじゃないからな」
 暗に部屋を片付けろ、そう告げてウーヴェがモヒートを飲むと、リオンが悔しそうに低く唸った後、空豆とエビをオリーブオイルで炒めたそれにフォークを突き立てる。
 「くそー」
 「それをしても良いと言うのであれば、バーカウンターを置いても良いな」
 交換条件として部屋を片付けろと伝え、リオンが腹立ち紛れに料理のすべてを平らげたのを見たウーヴェは、二人の飲み物もちょうど無くなった事だしそろそろ帰ろうと告げて席を立つ。
 その頃には悔しさもエビや空豆と一緒に飲み込んだリオンが満足そうな顔で笑い、スパイダーのキーを受け取るとごく自然な様子で運転席へと乗り込むが、ウーヴェが助手席に乗ると同時に腕を掴んで身体を引き寄せ、驚くウーヴェにキスをする。
 「!」
 「なるべく部屋をきれいにするからさ、いつかバーカウンターを置いてくれよ、オーヴェ」
 自分の部屋がきれいになるのはなかなか難しいかも知れないが、いつかそうしようと笑うリオンにウーヴェも微苦笑で返し、離れていくリオンの名を呼んで視線を合わせると、今度はウーヴェからキスをする。
 「・・・安全運転で頼む」
 「りょーかい」
 互いにキスを交わして家に帰ろうと笑うと、リオンが有言実行を教えるように車を走らせる。
 家に着くまでの短くもなく長くもない時間、二人の間では、リオンの部屋にバーカウンターを置いて酒を飲んだり談笑したりする自分たちの未来の姿を想像しては、ああでもないこうでもないと楽しげな会話が繰り広げられるのだった。

 

2013.04.21-05.26


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